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東京高等裁判所 昭和59年(う)696号 判決 1984年9月17日

本籍・住居

神奈川県三浦市南下浦町昆沙門二〇八七番地

定置網漁業兼農業

木村武勇

大正五年一〇月二七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、昭和五九年三月七日横浜地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官鈴木薫出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人野口敬二郎名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官鈴木薫名義の答弁書に、各記載のとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件事案の概要は、被告人は神奈川県三浦市において定置網漁業及び農業を営んでいたもの、木村常子は被告人の妻で被告人の右業務に従事しその経理全般を統轄していたものであるが、木村常子は被告人の右業務に関し所得税を免れることを企て、漁業収入及び農業収入の各一部を除外して簿外現金として蓄積する等の方法により所得を秘匿したうえ、昭和五五年分及び昭和五六年分につき、実際の総所得金額及び所得税額よりも過少な額を記載した虚偽の所得税確定申告書を所轄税務署長あてに提出し、もって不正の行為により所得税合計一億一〇二二万七一〇〇円を免れたというものであるところ、逋脱した所得税の額が一億一〇〇〇万円余という多額に及んでいること、逋脱率が昭和五五年分で九一・三パーセント、昭和五六年分で八五・一パーセントといずれも高率であること、脱税の方法も架空の船名或いは農園名を用いる等して売上げの一部を除外し、これを簿外現金として蓄積するという巧妙なやり方であり、自宅に合計一億二〇〇〇万円余もの現金を隠匿していたことを考えると、本件はこの種税法違反事件として重大かつ悪質な事件といわねばならない。

そうすると、本件対象年度の所得税については修正申告のうえその全額を納付済みであるほか、重加算税及び延滞税についてもその全額をすでに納付していること、被告人が反省し、昭和五八年四月施行の神奈川県三浦市議会議員選挙にも立候補を辞退して謹慎していること及び今回新たに湯朝信税理士を税務顧問に委嘱し、今後は同税理士の指導のもとに正しい所得税確定申告をすることを誓っていることなど所論の指摘する被告人に有利な諸情状及びこの種事件に対する量刑の一般的状況を考慮しても、被告人を罰金三三〇〇万円(逋脱額の約二九・九パーセントにあたる。)に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 小田健司 裁判官 阿部文洋)

昭和五九年(う)第六九六号

○ 控訴趣意書

被告人 木村武勇

右被告人にかかる所得税法違反被告事件の控訴の趣意は、左記のとおりである。

昭和五九年五月二八日

右弁護人 野口敬二郎

東京高等裁判所第一刑事部 御中

被告人を罰金三三、〇〇〇、〇〇〇円に処した原判決の量刑は重きに過ぎて不当であるため、原判決を破棄してこれを軽減されるべきである。即ち

一 被告人は、小学校卒業の学歴を有しているものの、小学生の頃も社会人となってよりも勉強をしなかったため、字は自己の名前以外には書くことも読むことも殆ど出来ず、計算は殆んど出来ないところから、木村家の世帯主として表面上は定置網漁業と農業経営者とされていても、経営についての知識が無く且つ、収支に関する計算が出来ず、また経営について関心を持とうとはしなかったため、漁業経営と農業経営ならびに家計一切を妻の木村常子が取り仕切っていて、被告人には、収入と支出の明細は勿論、所得も家計の内容も知らせずにいただけでなく、漁業及び農業の税務上の顧問も木村常子が独自の判断で委嘱し、被告人に紹介すらしていなかったため、被告人は東京国税局収税官吏が本件調査に着手する前に行った任意調査の際までは被告人の税務に関する顧問税理士とされていた朝日哲夫税理士に会ったことも、申告所得金額の確認を同税理士より求められたこともないので、各年分とも実際の所得金額は勿論、確定申告した所得金額も知らずにいたこと(木村和一の昭和五八年二月四日付質問てん末書問一六以下問二〇に対する答まで、朝日哲夫の同日付質問てん末書、被告人木村武勇の同五八年二月四日付質問てん末書、被告人木村武雄の検察官調書、被告人木村武勇の原審公判廷における供述調書)

二 東京国税局収税官吏が、本件調査に併せて行った調査により、被告人提出の昭和五二年分、同五三年分、同五四年分所得税確定申告に脱漏のあることが指摘された際、東京国税局収税官吏の慫慂に従って、これ等年度分の所得税に関する修正申告書を提出して

(一) 昭和五二年分所得税については、所得税の増額分金二九、五八五、五〇〇円と重加算税金七、八一八、九〇〇円及び延滞税金九、七七九、五〇〇円

(二) 同五三年分所得税については、所得税の増額分金四、四一六、三〇〇円と重加算税金五四二、四〇〇円及び延滞税金七二二、三〇〇円

(三) 同五四年分所得税については、所得税の増額分金一五、八五二、六〇〇円と重加算税金三、四九八、九〇〇円及び延滞税金三、三二八、七〇〇円

を納付したが、同五五年分及び同五六年分所得税確定申告についても、東京国税局収税官吏の計算に従い、脱漏金額を加算した所得金額であるところの同五五年分所得金額を金六六、一九一、八二〇円、同五六年分所得金額を金一六八、二二一、一六五円とする修正申告書を横須賀税務署長に提出するとともに、所得税の増額分全額と重加算税及び延滞税全額を納付したのに加え、同五七年分所得税についても所得金額を金一七一、八四九、五七〇円とする修正申告をして所得税の増額分と過少申告加算税、延滞税全額を納付したこと(朝日哲夫作成の昭和五八年三月一一日付証明書及び所得税修正申告書写、同五五年分、同五六年分、同五七年分所得税の修正申告書控、被告人木村武勇及び被告人木村常子の原審公判廷における供述調書、横須賀税務署長作成の納税証明書)

三 昭和五二年分乃至同五六年分所得税の修正申告による増加税額と重加算税及び延滞税ならびに同五七年分所得税の修正申告による増加税額と過少申告加算税及び延滞税の合計金額金二四八、三七五、二〇〇円と、同五八年分所得税予定納税第二期分金二九、五五六、九〇〇円を合計した金二七七、九三二、一〇〇円を納付するため、神奈川県信用漁業協同組合連合会三浦支所より同五八年九月二四日に金二六五、〇〇〇、〇〇〇円を、弁済方法を同五九年八月二七日金一三、〇〇〇、〇〇〇円、同六〇年より六八年までの間毎年二月二七日と八月二七日に金一四、〇〇〇、〇〇〇円宛の割賦で弁済することの約定で借り受けたこと(被告人木村武勇及び被告人木村常子の原審公判廷における供述調書)

四 東京国税局収税官吏の強制調査により、被告人の同五二年分以降の所得税確定申告に脱漏のあることを指摘されたことから、脱漏についての責任を痛感し、同五八年四月に行われた神奈川県三浦市議会議員の選挙には、立候補を辞退して謹慎していること(被告人木村武勇の原審公判廷における供述調書)

五 所得税確定申告についての厳しい指導をうけるため、税務調査について経験のある湯朝信税理士を自ら税務顧問に委嘱して同税理士の指導の許に所得税確定申告を正しく行うことを誓約しており、再度、所得税確定申告に際し、所得金額を脱漏する等して所得税法違反行為を犯す虞れがないこと(証人湯朝信の原審公判廷における供述調書、被告人木村武勇及び被告人木村常子の原審公判廷における供述調書)

等の情状が被告人に存在するので、これ等情状を斟酌すると、原判決の量刑は重きに過ぎて不当であるため、原判決は到底破棄を免れないものと思料します。

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